連作ミステリを知っていますか?いくつかの物語が順番に語られ、別々だと思われていた物語が最後にあっと驚くつながりを浮かび上がらせ、読者を驚愕させる。そんな短編と長編の要素を併せ持つ形式であり、並々ならぬ作者の力量が要求されるこの連作ミステリの名手が北森鴻さん。彼の作品を愛するファン倶楽部「香菜里屋」を今回紹介します。
骨董や美術品を眺めることが意外に好きなのです。それぞれが刻んできた歴史や、作品に携わってきた人々のことに思いを馳せると、時を経つのを忘れてしまうものです。閉じこめられた想いは時を越えて、今を生きる人々にも影響を与えているのではないか、などと柄にもない想いに囚われた、昼下がりの休日。そんな日には北森鴻の骨董を舞台にした冬狐堂シリーズに手が伸びる。ああ、至福の読書。
派手な作風ではないが、確固たる筆力で読者を引きつけるストーリーテラー、北森鴻。彼が扱う素材は多岐にわたり、デビュー作で両足を失った歌舞伎役者・沢村田之助を中心に起こる殺人事件を描いた『狂乱廿四考』、医療界を舞台にした『冥府神の産声』、夭逝した童謡詩人を巡る事件を描く『闇色のソプラノ』劇団を舞台に起こる事件を正体不明だが料理の腕が名人級の「ミケさん」が解決する連作集『メイン・ディッシュ』などさまざまな世界を舞台にさまざまなテーマを持った作品を次々に生みだしていく様は、まさにミステリ界の職人と冠するにふさわしい。しかもそれぞれが高水準のエンターテインメント作品に仕上がっているのです。
多種多様な作品を生みだしてきた故に器用貧乏と思われがちであるが、さにあらず。彼の作品の底に共通してあるのは、それぞれが抱える「人生」と、彼らが抱える「想い」。それらが重なり合いぶつかり合い、ふとした拍子に浮かび上がってくる人生の一断面を、ミステリという形をとって鮮やかに描き出していくのです。北森氏が得意とする連作ミステリでは、その真骨頂が発揮され、その分野での傑作も多い。
そんな北森氏のお薦め作品を選ぶのはなんともキビシイのですが、以下の3作品を紹介していきたいと思います。
- 『狐罠』
- 旗師。それは己の鑑定眼のみを頼りに骨董品などの取引や売買を生業とする者を指す。そんな旗師の冬狐堂こと宇佐見陶子は、「目利き殺し」を仕掛けられ贋作をつかみ、窮地に陥ることに!魑魅魍魎の闊歩する骨董の世界を舞台に、冬狐堂の反撃が始まるが、事態は殺人をも引き起こし、意外な方向へ。骨董業界の駆け引きの妙や、贋作事件の奥深さ、真贋の差とは何か、など興味はつきない。骨董という世界にはまること請け合いです!
- 『凶笑面』
- 異端の民族学者・蓮丈那智とその助手内藤三國が古代の謎を追いながら遭遇する数々の事件。古代史の禁忌に触れる者には、災いが降りかかるものなのか?現実の事件の解決と民俗学的仮説の論理という、贅沢なコンビネーションが絶妙に絡み合って、素晴らしい連作集に仕上がっている。蓮丈那智という冷たいまでの美貌の持ち主と真正直で憎めない人物である内藤三國のコンビの微妙な関係も、作品の楽しみの一つ。
- 『花の下にて春死なむ』
- ビアバー「香菜里屋」。ここでは、腕利きのマスターが極上の料理を最高のビールでもてなします。マスターの名は工藤哲也。彼は客の抱えている悩みを上手に引き出し、静かに耳を傾ける。彼らが持ち込む不可解な謎の数々。そして最後に静かに謎の「解答」を提示する。切なく哀しい真相に至る作品が多いのですが、工藤の「人の問題には他人に踏み込めない」というスタンスは適度な距離感となっていてある意味潔く、後味の悪さはない。北森氏の真骨頂が存分に発揮されている連作集です。
どうです。職人・北森鴻氏の巧の技、堪能したくなったでしょう?





