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【倶楽部紹介】全身「本格」家、鮎川哲也の世界~「鮎哲の会」~

現代本格推理の礎を築いたのは誰か?様々な名が挙がることと思いますが、その最先端に『鮎川哲也』その人を挙げることに異論はないでしょう。最近再評価の機運も盛り上がり、今まであまり読めなかった名作の数々も続々復刊している中、この「鮎哲の会」で感想などを語り合い、彼のおかげで本格推理の今があることを寿ぐのも一興ではないでしょうか?

買おうと思っていたが、財政とタイミングの都合で先延ばしにしていた一冊、鮎川哲也『りら荘事件』。そのうち店頭から姿を消し、後悔しきりだったその本。それが最近復刊して、再び我が目の前に!しかしまたしても財政の危機と、現在山積みになっている順番待ちの本の山がちらつき、躊躇を。同じ轍を踏まないためにも、ここで買っておかねばならんのは分かっておるのだが。。。ま、まずは家にある『黒いトランク』から読もうか。地味なイメージしかない彼の作品だけど、これだけ本格一筋だった鮎川哲也氏。驚くほどの読書体験が出来るかもしれないな。

本格推理小説とは、何か?それは、『鮎川哲也』の世界である ー 誤解を招きかねない発言ですが、ある種の真実がそこにはあります。多くの現役のミステリ作家が絶賛する『黒いトランク』『りら荘事件』『赤い密室』といった作品群作品の質の高さに加え、『下り”はつかり”』に代表される名アンソロジストの顔を持ち、晩年は一般公募短編集『本格推理シリーズ』で後進の育成にいそしみと、まさに「本格一筋の鬼」といって過言ではありません。

もっとも「アリバイ崩し」を得意とする氏の作風はいささか地味であり、乱歩や正史のきらびやかなイメージに比べると一般受けをしないのは否めません。その為か、60年近い作家生活の中で、幾度となく作品の入手が困難になり、忘れられた作家になりかけました。しかし、本物は不滅なのでしょうか。その度に復刊を望む声があがり、その作品は脈々と読み継がれてきました。事実、ここ10年余り作品の入手が困難な時期が続きましたが、2000年前後から復刊が進み、現在では大方の代表作が読めるようになりました。今、「鮎川哲也」は旬です。手に取って「本格推理小説」を堪能しませんか?

『黒いトランク』『りら荘事件』の両作品は論理小説の傑作、『赤い密室』は究極の密室小説といえますが。この手の小説が不得意な人には、拒否反応を起こすかも知れません。とりあえず、2,3作読んだ後の方がその魅力を味わえるのではと思っています。で、それ以外の傑作群の中から、入手が容易、読み物として面白いという基準で3作品を選んでみました。

『鍵孔のない扉』(光文社文庫)
鈴木重之、久美子の夫妻はどちらも音楽家である。些細なことから二人に亀裂が入る。やがて、久美子の不倫そして離婚。1ヶ月後、久美子の不倫相手思しき男が殺害される。嫌疑は重之にかかるが・・・・
一見、痴情の果ての殺人と思われた事件が別の様相をみせてくる前半が素晴らしい。鮎川長編の面白さは、後半、犯人が確定してからの「アリバイ崩し」もさることながら、掴みどころがない事件が整理され別の様相をみせてくる、「整理の美学」「展開の美学」にあります。もちろん、後半我らが鬼貫警部が登場してからの「アリバイ崩し」も一級品。題名の『鍵孔のない扉』に象徴される謎の解明に多くの読者は、驚かされるでしょう。また、解説で北村薫が「『鍵孔のない扉』の結びは、鮎川長編の中で最も余韻嫋々たるものだろう」といっているように本格一筋の鬼、鮎川哲也の秘めたセンティメンタリズムが堪能できる点でもお勧めの逸品。
『三番館のバーテンシリーズ』(創元推理文庫全6冊 及び 出版芸術社全3冊)
しがない私立探偵で元刑事の「私」。おんぼろ事務所に肥った弁護士が持ってくる事件は難事件ばかり。ただ、私は困らない。調査が行き詰まった時の知恵袋がいるからだ。三番館のカウンターに座り、ダルマ似のバーテンに事件の経過を話す。やがてグラスを磨きなら謙虚にバーテンは事件の真相を語り出す・・・・
いわゆる安楽椅子探偵ものです。こうした作品は会話だけ進む展開が多いためか地味な作品になりがちですが、『三番館のバーテンシリーズ』は前半「私」こと私立探偵がアクティブに動き回るので飽きさせません。また、レギュラーメンバーのやり取りがユーモラスで面白い。鮎川作品は堅苦しそうと敬遠ぎみの人は、このシリーズから鮎川ワールドに入ることをお勧めします。
『人それを情死と呼ぶ』(光文社文庫)
役所との汚職に絡んで、関連業者の河辺遼吉販売部長が失踪する。2ヶ月後、2体の白骨死体が箱根山中で発見された。どうやら、遼吉とその愛人らしき女性の死体のようだが・・・・
鬼貫警部物ですが、鬼貫警部の印象より遼吉の心中に疑惑を持つ、妹の由美、遼吉の妻の照子が印象に残ります。なぞ解きとメロドラマの見事に結合している逸品。そのせいでしょうかこの作品テレビドラマ化の頻度が高く、作品を読んでいなくてもドラマで見たという方が多いかも。この作品の後書きで鮎川哲也は「・・・・同じ汚職をとりあげた場合、本格作家はどう料理するか。興味の一つはそこにあるはずである」といい、同じテーマを取り上げても本格作家は、社会派作家とは違う処理をするんだ!と高らかに宣言しています。
「いょ、本格家」と云いたくなるでは、ありませんか・・・・
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2006年07月23日 18:25に投稿されたエントリーのページです。

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